日本史オンライン講義録

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022 天平文化

今回は,奈良時代の文化である天平文化について学んでいきます。この天平というのは年号のことでして,奈良時代の中でもとりわけ聖武天皇の時代と考えて下さい。

 

この天平文化の特徴としては,まずは文化の担い手が貴族であるということです。もう一つは,もっとも盛んだったころの唐の影響を受けた文化です。この唐には長安という都がありましたね。長安は,たとえばキリスト教を伝えてきた人もいれば,ウイグル人と言われる人もいれば,インドからの人もいれ,日本からの人もいたわけで,いわゆる国際都市でした。そんな国際的な文化を紹介していきましょう。

 

史書(地理書)

天武天皇の頃に編纂された「帝紀」「旧辞」をもとに新たに作られた歴史書で,もっとも有名なのが「古事記」ですね。日本の神話や伝承から推古天皇までを物語の形式で記述した紀伝体です。いつごろかというと,元明天皇の頃,稗田阿礼が語る物語を,太安万侶が筆録するというスタイルで編纂されました。古事記が出てきたらもう一つ,日本書紀です。これは,神話の時代から持統天皇までの歴史を編年体(年代順)で記述をしているというのが特徴的です。この日本書紀元正天皇のころに,舎人(とねり)親王を中心に作成されました。この日本書紀は政府としての歴史書の編纂事業でして,この結果のちに合わせて6つの歴史書が作成されました。「日本書紀」を初めとし,「続日本紀」「日本後紀」「続日本後紀」「日本文徳天皇実録」「日本三代実録」の以上6つのオフィシャル歴史書のことを「六国史(りっこくし)」と総称されています。

 

そして,次に「風土記」が挙げられます。郷土産物や,地名の由来,伝説などがまとめられている地理本ですが,たとえば風土記筑前国越前国上野国などたくさんの国の風土記が作られたのですが,完全な形で残っているのは唯一「出雲国風土記」のみです。他,一部残るのが常陸国播磨国肥前国豊後国風土記のみです。つまり風土記といえば5か国のものだけが現存しているってことになりますね。

 

文学

漢詩

さて,まずメインの文学としては漢詩文が挙げられます。これは,貴族や官人の教養として学ばれました。この漢詩文で覚えておきたい作品としては,「懐風藻(かいふうそう)」といって現存最古の漢詩集になります。この懐風藻に収められている人物として,淡海三船(おうみのみふね)石上宅嗣(いそのかみやかつぐ)が挙げられます。この石上宅嗣は,日本最古の図書館である芸亭(うんてい)を建てました。

和歌

で,漢詩文とならび教養とまではいわないまでも,嗜みとして受け入れられていたのが和歌です。奈良時代までの和歌集として万葉集が有名です。飛鳥時代とか奈良時代まで約4500首あまりを集めた歌集なのですが,大きく分けて4期あります。第1期の歌人は?第2期の歌人は?っていう問われ方はテストではされないかも知れませんが,少しみていくことにしましょう。まず,第1期は,非常に恋多き女性・額田王(ぬかたのおおきみ)です。天智天皇天武天皇の二人の愛を受けるわけですね,それで今はこの人と付き合っているけど,心はあなたのものよ〜みたいな歌をヌケヌケと歌ったりしています。そして,第2期は,柿本人麻呂らです。次に,第3期では山部赤人,最後に第4期では大伴家持です。ただし,この人達のような皇族や貴族に連なる人々だけでなく,東国の人が詠んだ歌「東歌」や,おもに九州の防衛に東国からやってきた人の歌「防人歌」など,身分の低い人の和歌も収録されているのが万葉集の特徴です。

 

教育

奈良の都,いわゆる中央では大学が設置されました。この大学では,どういった科目が教えられるのかというと,儒教の経典を学ぶ明経道律令などの法典を学ぶ明法道,そして9世紀以降の漢文歴史を学ぶ紀伝道が学ばれました。では,地方はどうだったのでしょう。地方は,国学が設置されて,地方の郡司の子弟らが養成されました。

 

仏教

仏教といえば,のちに真言宗とか浄土真宗とか日蓮宗などのようなわりと有名な宗派へと広がっていくのですが,この時代の仏教は奈良仏教といわれ,研究のための仏教として南都六宗といわれる6つの宗派があり,華厳宗三論宗法相宗成実宗倶舎宗律宗で構成されています。テストでこれが全部問われるってことはなかなかないのですが,それでも律宗とか華厳宗とか法相宗とかは,奈良仏教以外の仏教や人物を比較する時にけっこう登場してきますので注意はしておいてください。さて,この時代の代表的な僧侶といえば,いろんなお坊さんがいるのですが,たとえば行基あたりが有名ですね。行基は社会事業に貢献して,大仏づくりに力を注ぎました。あるいは,遣唐使のときにも登場しました玄昉ですね。玄昉は聖武天皇の時代に橘諸兄で重用されたお坊さんでしたね。そして,有名なのが,鑑真です。日本に戒律を伝えたことで有名です。戒律って何かというと,お坊さんになるためのルール,お坊さんになったら当然守らなければならないルールのことをいいます。たとえば,我々が車の免許をとるために,路上などで実技講習をうけるとともに,交通ルールなどを学ぶ学科講習を受ける必要があります。奈良時代にも,お坊さんになるためのルールがあったのですが,日本にはまだそのルールがなかったので,中国の唐からお坊さんを招いて,ちゃんとしたお坊さんを招いて,ちゃんとしたルールを学ぼうではないか,そしてちゃんとした修行をした人にお坊さんとしての免許を与えようではないか,ということで鑑真さんを日本に招くのですが,船が難破する難破する,船が何回も嵐に流されて,それでも日本に渡ろうとチャレンジをするわけですね。そして鑑真は日本にたどりついくことになるのですが,あまりにも激しかった道中のおかげで,ついにはストレスで目が見えなくなってしまうほどだったといわれています。だけれども,日本にとっては非常にありがたいお坊さんといえるでしょう。そんな鑑真さんの像は,唐招提寺というお寺に安置されています。

 

社会事業

そして,この仏教で社会事業が発展します。とくに,この仏教の教えに深く触れた光明皇后聖武天皇の奥さん)は,現代では病院にあたる悲田院で貧しい人を助けたり,薬局にあたる薬院を設立します。

 

神仏習合

この時代のもう一つの仏教としての特徴は,国家仏教ですね。鎮護国家の思想(仏教の力で国をおさめる)がベースになっているのですが,たとえば聖武天皇による国分寺建立の詔や,大仏造立の詔などが鎮護国家思想にあたります。このように,僧侶を招き,お坊さんを増やし,社会事業を行い,仏教の力で国を守ろうとする一大国家プロジェクトとして仏教が広く推進されたのでした。もう一つの流れとしては,神と仏は同一であるとする神仏習合思想がスタートしました。これは,神と仏はもとは日本古来の神様がいたわけですよね。たとえば,天照大神であるだとか,素盞嗚命であるだとか,大国主命とか,それぞれを祀った神社とかができてくるわけですね。しかし,この時代はすでに仏教に国が完全にのっかっている状態であって,天皇を祀っているのは仏様なのか,それとも天皇を祀っているのは神様なのか,神と仏は本来同一であるという思想がうまれてくるわけですね。これが平安,鎌倉でのちに何回か顔を出してくるので,またその時に詳しく触れたいと思います。

 

建築

もう奈良時代の建築といえば,お寺しかないですよね。なんせ仏教文化なんですから。ということで,奈良のお寺といえば東大寺が挙げられます。その東大寺の建物として,法華堂とか,皇室のお宝がおさめられている正倉院ですね。この正倉院は,三角の形をした木組みで建築されていまして,湿気のおおい日には空気が外へと逃げていき,湿気の少ない日には隙間が相手外からの空気を取り込めるといった空調機能をもっています。このような建築手法のことを校倉造といいます。

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そして,東大寺にならず天平文化の建築としては,唐招提寺が挙げられます。唐招提寺金堂あるいは講堂などが奈良時代の建物の代表格です。この唐招提寺は,唐から招いた人を弔うお寺という意味があって,鑑真を弔うために建てられました。

 

彫刻

さて,それでは彫刻つまり仏像を紹介していきましょう。彫刻には,塑像という仏像の作り方があります。これは,木を芯にして粘土で塗りかためた仏像です。造形の世界ではモデリングっていう手法なんですけども,粘土でペタペタと貼り付けていくことで整形する手法です。塑像で作られた代表作としては,「東大寺日光月光菩薩」「東大寺執金剛神像」などが挙げられます。

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この日光月光菩薩像なんかは表情が非常に静かで神々しいため,とても人気な仏像です。

 

続いて,塑像とならぶ代表的な仏像の作り方として,乾漆像が挙げられます。原型の上に麻や布を何重にも貼りたくって,漆で塗りかためた像です。この仏像は割と大きい像であることが特徴です。乾漆像で作られた代表作としては,「東大寺法華堂不空羂索観音」があげられます。

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これは非常に素晴らしい仏像で,もちろん国宝に指定されています。他にも,「唐招提寺鑑真和上像」あるいは「興福寺八部衆」ですね。

 

8つの仏教の世界の神様でして,その中でも最も有名なのが顔が3つ手が6本の「阿修羅像」です。

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遠目でみると穏やかな顔をしているのに,間近で見るとかなり迫力のある表情をしている,そんな多面的な顔を持つのが特徴です。

 

絵画

絵画では,正倉院鳥毛立女屏風(ちょうもうりゅうじょびょうぶ)あるいは薬師寺吉祥天像(きちじょうてんぞう)が有名です。

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この2人ですが,よく似た顔立ちが特徴です。そして,この鳥毛立女屏風は絵に直接毛羽立たせた施しがされています。そして,ちょっと地味ではあるのですが過去現在因果経(かこげんざいいんがきょう)といって,お釈迦様のストーリーを文章と絵で表現したもので,絵巻物の祖ともされています。

 

工芸

そして工芸です。聖武天皇の愛用したお宝が貯蔵されている正倉院宝物には,螺鈿紫檀五絃琵琶があります。

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琵琶っていうのが楽器ですね,貝殻などの装飾を施した五本の弦をもった琵琶です。そして,漆胡瓶(しつこへい)といってボトル,ポット,まぁそういうようなものです。で,代表的な工芸としては,百万塔百万塔陀羅尼(だらに)があります。これは願いをかなえるために,高さ20センチくらいのミニチュアの塔状のようなものを100万個つくって,陀羅尼(呪文のこと)をかいた紙を入れるのです。称徳天皇が作らせたものといわれているこの百万塔におさめられた百万塔陀羅尼は,日本最古の印刷物ではないかと言われています。

 

今回は,天平文化について勉強しました。以上です。