日本史オンライン講義録

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089 元禄文化①

ここまで江戸時代前期のお話をしてきましたね。たとえば文治政治への転換、元禄時代、正徳の治など、さらに交通の話、お金の話、商業の話、農業の話を挟んで、そして、この時代の文化である、元禄文化について今回を含めて全3回取り上げてみたいと思います。

 

まず元禄文化っていうのは何かというと、もちろん元禄時代の文化なんですが、徳川綱吉を中心とする江戸時代前期の文化と捉えてもらえればと思います。まず背景としては、この元禄時代になってくるとようやく世の中が落ち着いて、その文化が栄えていくことになります。思い返せば、元禄文化の前の寛永期の文化なんかは、まだ戦国時代の雰囲気を引きずっていたし、その前の安土桃山文化は信長や秀吉などといった、いわゆる戦国時代に片足を突っ込んできた人たちの文化であるし、その前の東山文化っていえば、応仁の乱の頃だったり、その前の北山・南北朝文化南北朝の騒乱の裏側にめずらしく文化がありましたね。元禄になってようやく戦争のない平和な世の中がやってきた、そういう中でだんだんと文化が成熟していくっていうような感じですよね。しかも鎖国が確立して、日本独自の「和風」の文化が平和な雰囲気の中で成熟していくっていうのが特徴です。

 

なので、この背景をベースに特徴を述べるとするならば、鎖国によって独自性が保たれた日本独自の文化が成熟していったといえるでしょう。まぁ、これが江戸後期になると平和もずっと続いてその文化がだんだん廃れていくのですが、今が旬!今が食べ頃!の文化が元禄文化です。そして、学問の重視ですね。これは文治政治とか綱吉とかの性格を反映して学問を重視していく文化となりました。また、紙や印刷技術の発達、たとえば書物であれば広く読み手に読まれるような紙あるいは印刷技術が発展して、より広範囲な層に受け入れられたのが特徴となっています。

 

ようやく平和がもたらされ、鎖国も完成したので日本独自の文化が成熟していく、そして江戸後半では枯れていくのだが、いままさに花開いた食べごろの文化、これがまさに元禄文化であります。元禄といえば、例えば井原西鶴とか松尾芭蕉とか尾形光琳とかが浮かぶのですが、それはまた後回しにして、わりと大学受験とかにも出題されやすい話からまとめていくことにします。

 

儒学の興隆

儒学といえば何かというと、上下関係による身分秩序というものを重んじるものでしたね。しかし、その秩序の立て方にいろいろなアプローチがあるので、この儒学の中にもさまざまな学派があるわけですね。江戸時代の代表的な儒学の一派として朱子学があげられます。朱子学というのは中国の朱熹(しゅき)さん達がはじめた学問のことをさします。この朱子学の考え方は、大義名分論といって、そもそも君主とは何か、家臣とは何か、親とは何か、子とは何かなど、それらの上下の身分秩序を学ぶころが重んじられますよっていうことです。どういうことかというと、朱子学っていうのは例えば私達が何か行動を起こそうとするときに、朱熹さんは書物をよく読み、よく習い、よく学んで、そして学んだ通りに行動しなさいっていうのが大義名分論です。例えば、将軍様は偉い、あるいは主君にはよくお使いしなさい、絶対に逆らっちゃだめですよ、っていうことを学んで、そのとおりに行動しなさいっていうイメージですね。これは上に立つもの、幕府あるいは大名たちにとっては非常に都合のいい考え方だったんですね。幕藩体制を維持していくのに都合が良いので、教学として幕府や藩に重んじられていくっていうのが朱子学です。

 

朱子学

そしたら朱子学の中でもいろんな学派があるので、それを見ていきましょう。まずは京学という一派がありました。これは以前学んだ藤原惺窩(せいか)の流れをくむ儒学です。藤原惺窩という人が家康に朱子学というものはこういうものですよって説いたところ、「よしよし、お前を家来にしたいのだがどうじゃ?」と家康が口説いたところそれを辞退した上で「林羅山という人を召し抱えなされませ」ということで家康に重用されたのが林家の林羅山、林鷲峰(がほう)親子ですね。この2人は「本朝通鑑(ほんちょうつがん)」という名の歴史書を著しました。そして、この鷲峰の子で林信篤林鳳岡は、徳川綱吉によって朱子学を教える人々のリーダーとして大学頭(だいがくのかみ)に任命されました。

 

そして林家以外では、木下順庵(じゅんあん)が挙げられます。加賀藩前田綱紀に招かれ、のちに綱吉に仕え、江戸に赴いていろんな人に儒学を教えました。木下順庵の弟子の中でいちばん有名なのが、新井白石です。旗本の身分でありながら、幕府の政治を握るくらいまで出世しました。新井白石は、家宣・家継など6代・7代将軍時代に幕政に参画しています。この新井白石は「読史余論(とくしよろん)」といった歴史論書、あるいは「古史通(こしつう)」といった日本書紀の解釈本を著しています。そして、木切れを折って火をおこして煙がモクモクと立つ姿を眺めていると、昔のことがいろいろと思い出されるなぁといった自伝「折たく柴の記」が随筆集としてまとめられています。そして、木下順庵の門下生としてもうひとり有名なのが室鳩巣(むろきゅうそう)ですね。この人はのちに徳川吉宗に重用され、幕政に参画しました。

 

京学ともう一つの学派に、南学という一派があります。土佐あたりで盛んになった学問で、土佐の谷時中により確立された朱子学の一派です。代表的な学者(?)として土佐藩の家老でけっこうお偉いさんである野中兼山(のなかけんざん)朱子学を修めています。もうひとりは、山崎闇斎という人がいます。この人は儒教神道を融合させました。今まで仏教に神道を融合させたり、神道に仏教を融合させたりして、どちらかというと神が本来の姿だとか、仏が本来の姿だとするものがありましたが、この山崎闇斎儒教神道を融合させようとしたわけですね。この神道のことを垂加神道(すいかしんとう)といいます。この垂加神道尊王論へ発展したという話もあるので抑えておくよよいでしょう。

 

陽明学

ここまでが朱子学系のお話でしたが、この朱子学を批判した一派があります。それが陽明学です。中国の王陽明実践による認識を重んじました朱子学は書物を読み、よく習い、よく学び、そのように行動しなさいとする学問でしたね。ただ、中国の王陽明という人は「いや、それは違うよ!そうしたら自分の責任においてまず行動してみることこそ大事なのではないか」と説いたんですね。たとえば、書物にとらわれてばかりいると、書物に沿った行動しかできなくなる、だから陽明学は自分がまず責任を持って行動しよう。まず行動してそこから学びにフィードバックすべきだ」としたのですね。

この陽明学の代表的な人物として、まずは中江藤樹ですね。彼は日本の陽明学の祖であり、私塾の藤樹書院(とうじゅしょいん)を開きました。そして熊沢蕃山ですね。この熊沢蕃山は岡山藩主の池田光政に仕えます。この熊沢蕃山の書いた書物として「大学或問(だいがくわくもん)」があげられるのですが、この内容が社会を批判した世の中を揺るがせた者だとして幕府の処罰されました。

 

古学

孔子孟子といった古典から直接学ぶということを重視したのが古学でした。朱子学陽明学も、儒学を興した孔子様が導いたものではなく、孔子様はただ自分と弟子との間の中で人にされたら嫌なことはしてはなりませんよ、やりすぎっていうのはやらなさすぎよりも良くないことだってありますよっていうことを弟子とのコトバのやり取りなだけであって、その弟子が儒学というカタチとして孔子様の言動をまとめただけのものなんですね。だから、この朱熹さんも、王陽明さんも孔子の教えそのものではないわけなんですよ。朱熹さんや王陽明さんといったのちの人たちが勝手に自分なりに孔子の考えを解釈しただけに過ぎないというのが古学のスタンスです。これにも様々な学派があり、まずは聖学といって山鹿素行という人が「聖教要録」の中で朱子学を批判しています。孔子孟子は聖人の道を説いておられたのであり,したがって我々は聖人を追及しなければならない,そして朱子学はよくないといって批判するわけですから当然幕府からおとがめをうけて処罰されたりしています。そして、「中朝事実」といった本も著しています。

続いて古学の一派として、古義学派(堀川学派)があります。代表的人物が、伊藤仁斎伊藤東涯ですね。この親子は,「論語」や「孟子」など儒教の古典をしっかり読むことで,孔子孟子の教えを探りましょうってことで,ひらいた私塾を古義堂(堀川塾)といったので、この学派のことを古義学といいました。伊藤先生はめちゃくちゃ優しい先生だったらしく,塾生も3000人くらいいたそうです。一方で,その迎えにあったのが山崎闇斎先生の塾ですが,山崎先生は「こらーそこ!居眠りするとは何事だ!」「こらー,そこ!頬杖つくとは何事だ!朱子学が大切にしている上下関係がなっとらん」など,授業をせずにずーっと怒ってたらしく,塾生も少なかったのだとか。

そして、最後は古文辞学派です。代表的な人物として荻生徂徠(おぎゅうそらい)が挙げられます。古文辞学派というのは政治経済の専門家(経世家)としてのノウハウもあって、たとえば柳沢吉保(綱吉の側用人)は吉宗に仕え、江戸に私塾である蘐園塾(けんえんじゅく)をひらきました。そして太宰春台も経世家であり、代表作「経済録」を著しています。

 

ここまでが儒学の流れなんですが、さてみなさん、ことの重大さに気づいていただいてでしょうか(笑)似たような◯◯学、◯◯塾といった名前ががズラーっと並んでいて覚えるのがなかなか大変ですね。ちょっとだけまとめておきましょか。

 

儒学のまとめ

 朱子学

  京学:藤原惺窩

   林家:林羅山、林鷲峰、林信篤

   それ以外:木下順庵、新井白石、室鳩巣

  南学:谷時中、野中兼山、山崎闇斎

 

 陽明学中江藤樹、熊沢蕃山

 

 古学

  聖学:山鹿素行
  古義学伊藤仁斎、伊藤東涯
  古文辞学荻生徂徠、太宰春台

 

覚え方のコツとしては、まずは学派の名前と人名からきちんと抑えた上で、そこに書物や私塾の名前を覚えるのがセオリーです。