日本史オンライン講義録

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171 明治の文化⑤ 文学・芸能

明治の文学なのですが,まずは小説や物語系からいってみましょう。

小説

戯作文学<明治初期>

さて,明治の初期はというと,戯作文学というのが作られます。これは文字通り,楽しめる本ですね。江戸時代の滑稽本の流れをくむ大衆文芸でして,代表的な作品としては,仮名垣魯文の「安愚楽鍋」があげられます。流行りの牛鍋屋に人々が集まってワサワサと話をする様子を描いたものでまさに文明開化の世相を描いたものでした。滑稽本といえば式亭三馬の「浮屋床」という作品でも,床屋という舞台でいろいろな人間模様を面白おかしく描いたものでしたが,仮名垣魯文は鍋屋さんでいろいろな人間模様を描いたのでした。

 

政治小説<明治初期>

つづいて,政治小説ですね。これも,明治の初期にさかんに作られた政治小説でして,「自由をよこせ!」「権利をよこせ!」といった自由民権運動の高まりにともない,政治の主張を伴う作品です。戯作文学が滑稽本の流れをくむ一方で,この政治小説は読本の流れをくんでいます。代表的な作品として,矢野龍渓の「経国美談」が挙げられます。ギリシャにテーヴェという国があるのですが,そのテーヴェの国の歴史をひもときながら理想的な国のあり方を主張したのでした。他にも,東海散士佳人の奇遇」では,世界を渡った少年がいろいろなことを感じる様子を描いた作品です。あともう一つ,末広鉄腸の「雪中梅」という本です。ある青年が政治活動をするのですが,波乱の政治活動の様子を描いた作品です。

 

写実主義<明治20年前半>

これまでの作為的なものではなく,事実を淡々とありのままに描き,主張があるならそんな事実の中で説いてとにかく描写に徹しよう,言いたいことがあれば作品に語らせようとした写実主義の作品がさかんとなってきます。

代表的な作品には,坪内逍遥の「小説神髄」(文学論)があげられます。坪内逍遥は自分の文学論に基づいて,「当世書生気質」(小説)をかいています。

つづいて,二葉亭四迷の「浮雲」では,実験的に話し言葉で描く言文一致体をとっています。内容はというと,役所をクビになった男がいるのですが,元同僚は出世を重ねていき,自分の彼女までもとられてしまい,悶々とする日々を描いた作品です。

他にも幸田露伴の「五重塔」では,五重塔を建てる大工さんのアーティストっぷりを描いた作品です。

さらに,尾崎紅葉も挙げられます。この尾崎紅葉は,文学団体の硯友社を山田美妙とともに結成し,代表的な作品としては「金色屋敷」(小説)がありまして,これは自分の婚約者をお金持ちにとられてしまって,その婚約者にむかって「おまえは愛より金をとるのかよ!」っていうような作品です。

そして,雑誌では「我楽多文庫」が有名です。

 

ロマン主義<明治20年代後半>

この写実主義に対して,ロマン主義というのが現れます。この写実主義っていうのは,描写に徹することこそいいんだ,思いは作品に語らせればせれでいい!っていうのに対して,ロマン主義は著者の思いや感情や個性をさらにそこに乗っけていくことを重んじます。代表的な作品には,北村透谷の「文学界」という雑誌があります。

もう森鴎外ロマン主義っていうのは,ひとつのキャッチフレーズ化しているといってもよいくらいですが,「舞姫」ではドイツで出会った女の人と恋に落ちて子どもまで作るんだけど,その人を捨てて日本に帰国してしまうっていう話でして,国語の教科書にものるくらい有名な作品です。ちょっと文章が硬いので高校生には少しとっつきにくいのですが,読み込んでいくうちに感情移入できたりする文学に仕上がっています。

そして,樋口一葉たけくらべ」ですね。少年少女から大人になっていく多感な時期の淡い恋物語の作品になっています。

さらに,泉鏡花の「高野聖」ですね。お坊さんが体験した不思議な怪奇現象を旅の道連れの若者に聞かせるお話です。

そして,徳富蘆花不如帰(ほととぎす)」このまえ蘇峰さんがでてきましたよね。あの弟にあたるのが徳富蘆花さんです。軍人の奥さんが結核にかかってしまい,その軍人さんが帰国したら結核が感染ってしまうということで,離婚を余儀なくされるのですが,そんな嘆き悲しむ奥さんの様子を描いた作品です。

 

自然主義<明治30年代>

人間世界の現実をありのままに描いたものが自然主義です。何が自然かというと,ありのままに描くのが自然です。そうすると自然主義っていうのは,どんどん暗くなっていくのですね。人間のありのままの姿ってそこまで明るく理想的なものでもないので,悶々とした暗い作品が自然主義の特徴です。

代表的な作品には島崎藤村の「破戒」があります。被差別部落にうまれた教師が自分の出生に悩み苦しみ告白をするといった姿を描いた作品です。

そして,田山花袋蒲団」ですね。作家である主人公が,女性の弟子に片思いをして悶々として,自分の思いを告げられず,最後はその恋に落ちた女弟子のパジャマの匂いを嗅いじゃうっていう,ちょっと変態チックな様子を描いた作品です。どんな小説やねんって思わず突っ込んでしまいがちな感じの作品ですよね。

さて,国木田独歩の「武蔵野」も有名です。

他にも,徳田秋声「黴(かび)」という作品がありまして,なんとなく成り行きで結婚してしまった男が,不毛な愛に耐えきれず他の女と付き合うっていうこれも悶々とした作品ですね。

あともう一つ,長塚節「土」という作品でして,ある貧しい農民一家にこれでもかというほど苦難が舞い込んできて,辛い描写がずーっと続くといった作品でいsてTHE写実主義とも言えるでしょう。

 

反自然主義<明治末〜大正>

とにかく自然主義暗いんですよね。そこで,反自然主義といわれるさまざまな傾向の文学がでてくるわけです。

高踏派では,格調が重んじられるといわれいまして,夏目漱石吾輩は猫である」では,猫目線で人間模様を描くことで,当時の社会の様子を描いた作品です。他にも森鴎外の「雁」があげられます。

あるいは耽美派では,作品を芸術として完成度を高めていこうといった作風でして,たとえば永井荷風耽美派のはしりとなるわけです。

 

詩歌

では,詩や歌のロマン主義では,ここでも島崎藤村が登場しまして「若菜集」といった恋の歌でみずみずしい作品です。そして,土井晩翠「天地無常」といった詩集を残しています。短歌では,与謝野鉄幹明星」という雑誌を出します。その「明星」に短歌を発表し,詩集「みだれ髪」を出したのが奥さんの与謝野晶子です。

続いて,短歌の世界ではホトトギスという俳句のグループがありまして,このホトトギス正岡子規ホトトギス」という雑誌を発刊します。この雑誌にたくさんの人が俳句を寄稿していたのですが,正岡子規は若くして亡くなってしまいますので,彼の死後,彼の友人でもあり弟子でもある高浜虚子が引き継ぎます。

そして,短歌の世界ではアララギ派というグループもありました。代表的な人物としては,伊藤左千夫長塚節らが雑誌「アララギ」を出しています。そして,このアララギに寄稿した歌人たちのグループのことをアララギ派といわれるようになります。

 

芸能

歌舞伎

まずは歌舞伎なのですが,明治初期は基本的に江戸時代の流れをくむものですので,江戸時代にも活躍していた河竹黙阿弥などが,最近の世の中を歌舞伎にうまく織り込ませることが上手でして,歌舞伎で文明開化の風俗を取り入れた新作を発表しています。まぁ,最近では歌舞伎でアニメの世界を描いたりしてますよね。歌舞伎となると昔の小難しい話ってイメージを持ちがちですが,そういうのを打破したものでもありますね。

これが中期になってきますと,団菊佐時代といいまして明治歌舞伎の黄金時代が到来します。9代目市川十郎,5代目尾上五郎,初代市川團次らが明治の中期ごろに活躍した時代です。

新劇派

この歌舞伎の流れを汲んで,わりと大衆ウケの強い劇にしたのが新派劇です。新派劇は,歌舞伎の影響が強い現代劇です。代表的な人物が,川上音二郎でして,壮士芝居あるいはオッペケペー節といった主義主張をだしてきたり,風刺とともに歌に織り込んで政治や時事を風刺したりする民権思想も表現されています。

新劇

新派劇と似た名前ではあるのですが,新劇ですね。これはバリバリの西洋近代劇でして,シェイクスピアなどの作品を翻訳して上演するというようなスタイルのことを新劇といいます。そんな新劇のグループとしては,文芸協会,そして自由劇場の2大グループができました。西洋スタイルを取り入れて自分たち風にアレンジして演じる方針をもつ文芸協会には,さきほども登場しました坪内逍遥島村抱月松井須磨子らがいます。一方で,西洋スタイルを取り入れて忠実に演じていこうとする方針の自由劇場には,小山内薫らがいます。