日本史オンライン講義録

受験勉強はもちろん、日々の学習にも役立つ日本史のオンライン講義です。 

119 松方財政

前回は,明治六年の政変によって板垣退助が政府をおりたあと,「オレたちの意見が聞き入れられないのであれば,聞き入れられうような議会を作ろう」ということで自由民権運動が高まりました。各地にインディーズ団体である政社をつくり,そしてついに自由党という政党が設立しメジャーデビューを果たしたのでしたね。

 

財政問題

今回は,ちょうどその頃,社会の裏側では何が起きていたかというお話をします。それは,お金の問題でいろいろあったようです。それまでの明治初期には,前々回お話をした西南戦争をはじめとする士族の反乱が頻発しました。西郷隆盛の軍はなかなか強くて,やっつけるために政府はたくさんの武器や,たくさんの弾薬や,たくさんの食料などを買い付けなければなりませんでした。それに使われたのが不換紙幣でした。

 

不換紙幣というのは金や銀には変えられないお札のことで,いってみれば単なる紙に額面が印刷されただけのものでした。そんないい加減なお金がバラまかれて,それがお金として流通し,武器や弾薬や食料などが取引されていったのです。さて,そもそも国立銀行ははじめは不換紙幣に対して兌換紙幣しか発行が認められませんでした。つまり金1.5Kgと交換できるお札として1円札を発行する役割が任されていたのが国立銀行でしたね。だから国立銀行は兌換紙幣を発行するために,いつでも金と交換できる分だけの金を保有しておかなければなりませんでした。でも,たった4行しか設立されなかったことから,国立銀行条例が改正されて,不換紙幣でもいいよ,金と交換できなくてもいいよ!としたもんだから,バンバンと不換紙幣が発行され,発行されたお金が余ってしまい,余っちゃったら今度はお金の価値が下がりはじめ,お金の価値が下がると物の価値が上がってしまうインフレを招くことになりました。さらに,武器や軍艦を海外から輸入するときは,兌換紙幣は通用せずあくまでも金属としての金・銀でしか輸入できなかったので,金や銀が海外へどんどんと流出してしまう事態に陥ってしまったのでした。

・手持ちの金・銀は海外へ流出

・バラまかれた紙幣の価値はどんどん下がり,同時に物の価値があがる(インフレ)

 ということですね。今までジュース1本100円で買えていたものが,お金の価値がさがっちゃったもんだから,1000円でないと買えなくなるっていう状態ですね。これをインフレーションといいます。もう大丈夫ですよね?

 

自然なインフレっていうのは自然に解消されていくのですが,今回の場合は意図的に不換紙幣がバラまかれ,さらに海外から武器を購入するために金属としての金や銀が国外へ流出してしまったために,不自然なインフレが急速に発展してしまって,物の値段がぐちゃぐちゃになって経済が混乱してしまったのでした。

 

大隈重信の財政政策

そこで,大蔵卿(いまの財務大臣)にあたる大隈重信が,対策をとりました。どうしたかというと,このインフレ加熱を引き締めるために,まずは金や銀をたくさん確保しようということで,増税を図りました。お酒に税をかけたりするっていうのは世界史・日本史関係なくわりと古来からとられていた手法なのですが,酒造税を定めたり,官営工場を売却するなどして,とにかく金貨・銀貨の形で収入を増やし,正貨を確保しようとしました。しかし,これは根本解決にはなりませんでしたので,大隈重信の次にあたる外務卿で松方正義が就任しました。

 

松方正義の財政政策(松方財政

大隈重信と違うところは,金銀の確保だけでなく,バンバンと発行されてしまった不換紙幣を整理していくところにありました。

  • 軍事費以外の歳出をおさえる
  • 不換紙幣を整理するデフレ政策

具体的には,やっぱりお金を使いすぎるのも良くないので,しっかり確保をしておきましょうということで,軍事費以外の支出を抑えて財政の引き締めを行ったのでした。この軍事費以外のっていうところがポイントです。軍事費も引き締めてしまったら国防できなくなってしまいますもんね。そして,不換紙幣を整理するデフレーション政策をとりました。いままでお金をばら撒きすぎて信用がなくなっていたので,お金の信用を取り戻すために以下のことを行いました。

  • ① 印刷しすぎた紙幣をとにかく減らす
  • ② 正貨(金属としての金銀)を確保し,国の信用を高める

とくに②については,正貨を持っていない国のお札と,正課を持っている国のお札であれば,後者の方が圧倒的に信用が高まりますよね。こうして,2つの取組みを並行して行うことによって,低下してしまった国の信用を高めようとしたのでした。

 

貨幣制度の準備

この時に作られた銀行が日本銀行ですね。今もある日銀です。国立銀行とは一線を画した中央銀行です。今まで紙幣を印刷してばらまいていた153行の国立銀行から紙幣発行権を取り上げて普通銀行化し,紙幣発行権は日本銀行が引き継ぐことになりました。これはわかりますよね?インフレを招いたのもそもそも国立銀行が金や銀と交換できない兌換紙幣を乱発したことが原因だったので,その原因を取り除くために国立銀行から紙幣発行の権利を取り上げたのでした。そして,日銀がこれから発行する紙幣は持ち込んでくれればいつでも銀と交換しますよとする銀兌換銀行券を発行します。これより,銀本位制による貨幣制度が確立します。さて,このようにして松方正義は,額面を印刷してバラまかれたお札を回収し,処分し,これからは日銀が発行する通貨は銀と交換できる紙幣ですよってことで少しずつ市場にばらまくわけですね。そうすると,お金の価値は徐々に高まってきますよ。しかし,次に起こってくることはなんでしょうか?

 

 

松方財政の影響

かんたんにいうと,こうです。松方正義がいいかげんなお金を回収し,処分して,新しいお金を銀と結びつけてちょっとずつ市場にばらまいていくわけですね。そうすると,これから先のお金っていうのは手に入りやすいですか?入りにくいですか?そうですよね,お金の出処をしぼったわけですので,手に入りにくくなりますよね。それなのに,地価に対して2.5%の税(地租)は変わらず払わなければなりません。つまり,お金が手に入りにくくなったのに,だからといって地租が安くなったわけではないので,これは人々にとっては負担でしかありません。今までなら米10Kgをお金に買えて5000円で手にいれることができたのに,(インフレ対策の影響で)これからは米10Kgをお金に買えても3000円にしかならない。なのに,地租は今までと変わらず2.5%なので,税を払えなくなった農民らが困窮するわけです。

 

西南戦争のおかげで,国はお金をばら撒きすぎた。そして経済が混乱した。だから松方正義は,お金を処分して価値のあるお金を少しずつ卸すことにした。そうすると,お金の出処をしぼっているわけだから,庶民にとってはお金が手に入りにくくなる。にもかかわらず税率は2.5%のままなので,農民たちが苦しくなる。さぁ,こうなってくると今度は苦しい農民達と,自由民権運動家達がタッグを組んで,政府にたいして不満を爆発させていくということになっていきます。今回は以上です。