日本史オンライン講義録

受験勉強はもちろん、日々の学習にも役立つ日本史のオンライン講義です。 

157 占領政策の転換

今回は占領政策の転換ということをお話ししたいと思います。その前に,戦後の内閣はどういうふうになっているかと振り返っておきましょう。

 

ざっくりとらえるとするならば,「東で吉田片あし吉田」の東久邇宮・幣原・吉田①・片山・芦田内閣までは,アメリカは日本の占領政策においては軍国主義的要素を除去するために,日本の毒を抜いて日本を無力化しようとするわけですね。そして,吉田②内閣と吉田③内閣の前半では,むしろ日本を無力化よりもあえて力をつけさせてアメリカ側に取り込もうとしていきます。そして,吉田③内閣の後半では,日本の主権を回復させて,アメリカの同盟国として利用していきます。

 

アメリカの日本占領政策の転換

それにしてもアメリカは何で日本の自立を助けようと思うに至ったんでしょうね?それは,前回お話したようにソ連との対立が深まったのでしたね。冷戦構造が形成されたってわけです。そして,この冷戦構造の中で中国が,どうやら社会主義をめざす共産党の方の勢いが強く,中国がソ連サイドに寄ってきているなとをアメリカは感じるわけです 。そこでアメリカは占領政策の方針を転換し,中国に比較的近い日本を無力にするよりも,利用価値の高い国として戦略的に使っていこうと考えたのですね。だってアメリカはソ連や中国とは距離的にも遠いわけですから,そこで日本を極東の拠点として活用していこうという発想は分からなくもないですよね。具体的にいえば,経済復興を助けてやって,あわよくば日本を再軍備させて戦力的価値を満たしてやれって感じですね。では,この転換期にあたった内閣を中心に見ていきたいと思います。

 

第一次吉田茂内閣

さて,この内閣の前に片山内閣や芦田内閣がありましたがインフレ問題がありましたよね。どうしてインフレが進行していたかというと,日本の企業は戦争も終わってとにかくお金が必要だったんですよね。そこにアメリカが10兆円規模のお金を援助してくれたり,世界銀行国際復興開発銀行・IBRD)からの融資があったり,傾斜生産方式で特定の産業に対して復興金融金庫などを使って資金を注入していったのでした。そうすると,このお金っていうのは別に日本で稼がれたお金ではないですよね?お金のないところに空からお金が降ってきたようなイメージですから,お金の流通量が増えすぎてお金の価値が薄まって物価の価値が高まることでインフレになりますよね。お金がちょっと紙切れに近づいていくって感じです。そうすると企業たちは,自分達で頑張らなくても待っていれば空からお金が降ってくるってことですから,いつまで経っても日本企業は自立ができないじゃないかってことになるわけです。アメリカとしては自分たちだけで稼げるような実力をつけてほしいっていう思いを吉田茂内閣へ伝え,吉田茂内閣では経済安定九原則の指令が出されます。

経済安定九原則

内容は,たとえば予算の均衡ですね。予算を引き締めて,無駄遣いはやめて,徴税を強化することによって,日本という国そのものがお金を稼ぐ体質にかえていこうといった全部で9項目の経済安定策が示されました。9つ全部覚える必要はありません。均衡予算と徴税強化が図られたということを抑えてもらえればオッケーです。

ドッジ・ライン

それとともにアメリカからやってきた経済顧問のジョセフ=ドッジさんによって,ドッジ=ラインという基準が示されました。ドッジさんというのはアメリカのデトロイト銀行の頭取でして,いわば経済政策のプロなんですね。ちなみにドッジさんは来日したときにこんな声明を出しています。「現在,日本でとられている傾斜生産方式は合理的ではなく地に足がついていない。日本は竹馬にのっているようなもので,竹馬の片足がアメリカであり,竹馬をあまり高くしすぎると(援助額が高まるほど),転倒して首の骨をおる危険性がある」と言いました。そんな経済政策のプロフェッショナルが日本にやってきて何をやったのかというと,1ドル=360円の単一為替レートが設定されたのです。今は1ドル=100円代ですが,この頃は随分と円が割安な円安ドル高な交換比率でした。円安はどんなメリットがあるかというと,海外からすると円製品が安く見えるわけですから,海外からどんどん購入してもらえるわけですよね。ですので輸出産業で好調になります。一方で輸入産業にとっては厳しいですよね。でもそこがシャウプさんの狙いだったのです。つまり,企業努力をしなさい!ってことですね。しっかりと体力をつけて会社の経営を安定をさせなさいって政策転換が日本経済の自立へつながっていくんです。あの浜口雄幸内閣のときの金解禁と同じ発想ですね。

シャウプ勧告

それとともに,税金の徴収も方針を変えたほうがいいですよっていう勧告がアメリカのシャウプさんからされました。そもそも日本はこれまでにさまざまな間接税を徴収していました。たとえば酒税なんかがそうですね。でもこのデメリットとしてはなかなか安定して徴収することができないんですよ。とくに景気が悪くなればお酒を飲むことを控える人が増えますからね。ですので,安定して税徴収ができるようにということで,税制改革が行われ,稼いだ人から中心に税を徴収していく累進課税制度を採用し,間接税から直接税へと転換していきました。

 

経済政策の結果

 

このような経済政策の結果どうなったのかというと,インフレが収束していきます。しかし,みなさんも感じませんか?自立っていう言葉には裏があるということを。自立には厳しさを含んでいます。お母さんから「あたしはもう知らないよ。高校生なんだし自分で考えて行動しなさい」って言われて,これってあえて厳しく感じる言葉ですよね。インフレを収束させるってことは,言い換えれば「もうアメリカは日本にお金をジャブジャブ支援はしないよ。自立しない企業はどんどん潰れていくけど,それは仕方ないよね」ってことですね。そうすると,倒産企業が増え,路頭に迷ったサラリーマンが溢れかえり,生活費が稼げないから今度はモノが売れなくなり,モノが売れなくなるから,デフレが深刻化し,不況になっていってしまったのでした。そんな中でも企業は自立をしないといけないですから,人件費を削減するために人員整理が行われます。そうすると,労働者たちが労働組合を結成し,抵抗をしていくわけですね。そういったときに,国鉄を巡る事件がいくつか起こりました。たとえば,下山事件とか三鷹事件とか松川事件がそうなのですが,列車の転覆事故であったり人が殺害されたりするなどちょっと怪事件が起きるわけですね。こういった事件は,国鉄側(労働組合側)の自作自演ではないかとも憶測を呼び,これが労働運動や共産党の弾圧に利用されるという政情不安を招いていったのでした。