174 大正・昭和の文化②学問や文学
大正時代・昭和初期の学問や文学について見ていきたいともいます。大正時代といえば大正デモクラシーの時代ですね。参政権がどんどん拡大し,経済の担い手もお金をもらって働くサラリーマンが経済を担っていき,政治経済の担い手が一般大衆になっていくわけですね。そうすると,この学問や文学というのも割と広い層で,多様な発言,多様な学問,多様な文学っていうのが生まれていきます。
学問
大正デモクラシーの風潮とともに,比較的自由な言論が許されていました。例えば,石橋湛山ですね。この人はのちに総理大臣にもなる人物ですが,「東洋経済新報」という
経済雑誌がありまして,この筆者であった石橋湛山が植民地の放棄と平和的経済をとなるわけですね。この時代の日本というのどうなっていたと言うと,1910年代といえばようやく日韓併合し,ようやく朝鮮半島を自分のものにし,これからいよいよ欧米列強と肩を並べ,植民地支配をやっていくぜ!っていうような気持ちが日本にあったわけですね。そういった中でこの石橋湛山は,植民地は放棄した方がいいんじゃないんですかねという風に捉えていったのでした。こういう風に,自由な言論もこの時代だからこそできる雰囲気があったわけですね。
マルクス主義もそうですね。時代が進めばいつかは社会主義革命がおこり,当然のように社会主義が樹立されるべきだと唱えたのがマルクスでした。そういった社会主義思想の影響を受けて,例えば雑誌であれば「労働」そして論文集の「日本資本主義発達史講座」ですね。この2つは革命の手法であったり,今って革命のどの段階かっていう論争を繰り広げたんですけれども,方向性としたら社会主義を樹立したいなという気持ちでは一緒なわけです。そのマルクス主義の影響を受けて河上肇という人物が,「貧乏物語」という割と身もふたもないようなタイトルの本を書くわけですが,簡単に言えばお金持ちの中を倒して,平等な世の中にしようというマルクス主義の影響を多分に受けています。
人文科学
哲学では,西田幾多郎「善の研究」や,和辻哲郎「古寺巡礼」「風土」などを表しています。
歴史学では,津田左右吉「神代史の研究」でして,古事記か日本書紀とか神様の時代を科学的に分析した研究書を残しています。
民俗学では,柳田国男です。「遠野物語」では,日本のある地方の民衆の生活とそのルーツを丹念にたどっていく民俗学を研究しました。
自然科学
自然科学では,理化学研究所が設立をされました。化学の研究施設なんですが,後にこれは成果を企業化し,理研コンツェルンという企業の複合体のような形になっていきます。この理研コンツェルンを遠いルーツに持つのが,リコーだったり,あのドレッシングとかわかめスープとかの理研は,ズバリこの理研なんですよね。こういった企業のルーツがこの理化学研究所,理研コンツェルンの元を辿るわけです。
そして,野口英世ですね。この人は黄熱病の研究をした人です。
続いて本多光太郎は,KS磁石鋼という磁石に向いた合金を開発し実用性のある磁石が作られるようになりました。
続いて,八木秀次ですね。これはあの八木アンテナと言われるアンテナの大発明をした人です。形でいうと魚の骨のようなアンテナですね。
文学
高踏派
明治の最後から最初にかけて活躍した人物ということで夏目漱石ですね。漱石の晩年の作品は,例えば「こころ」であるとか「明暗」などが有名です。「こころ」は教科書にも載っていますが,同じ人を好きになっちゃって,その人を裏切っちゃって,最後に自殺させちゃったといわれる先生と言われる人の作品ですね。日本の小説の中では最も売れていると言われています小説です。そして,森鴎外ですね。この人は「阿部一族」ですね。これは歴史物で,主君の死に付き合わされて自分も死ぬっていう殉死を巡るドラマです。
耽美派
文学はアートだ!ということで文学を追求していくような人々に永井荷風がいます。「腕くらべ」では,新橋の芸者遊びの話などが描かれています。次に,谷崎潤一郎ですね。こちらは例えば「刺青」です。刺青を掘ればこれが美しく蠢く描写がされています。そして「痴人の愛」ですね。これは少女を囲って奥さんにするというような,わりと破滅的な恋愛の形をバンバン描かれていて,現代人でも破滅的な恋愛みたいなのは面白いんじゃないかなと思います。
白樺派
そして,新しく登場してくる派の一つが白樺派です。白樺派は,雑誌「白樺」に文章を寄せた人々のグループです。特徴としては,人道主義でしてわりと正義感かきてるような本を書いてます。そして,理想主義でして自我や個性を主張します。そして反自然主義でもあり,そこまで暗くもなく,かといって耽美派のようにアードだっていうような感じでもなく,作者のゴツゴツとした思いを伝えるような派ですね。
例えば,有島武郎の「カインの末裔」「或る女」などが挙げられます。「カインの末裔」は,北海道厳しい自然の中で苦労するちょっと外れものの農民のお話です。
そして,志賀直哉「暗夜行路」ですね。暗夜行路は,なんと16年間も連載をされていた作品でして,文章のスタイルなどは変わるのですが,主人公とか設定っていうのかえずに,ひとつのストーリーというよりはそれぞれのその場その場で完成度が高い文章をかいといわれています。
そして,武者小路実篤ですね。この人は結構長生きした人物で,昭和のテレビ番組とかでも出てた人です。「友情」とか「その妹」など,わりと白樺派っぽい人道的でして,「私は友情や愛についてこう思う」というような武者小路実篤の気持ちが表されています。
新思潮派
現実の世の中っていうのは,いろんな矛盾とか,いろんな嘘とか,いろんなまやかしにまみれた現代社会であり,そんな現実社会っていうのを理知的に表現したグループです。有名なのが,芥川龍之介「羅生門」「鼻」などですね。この芥川龍之介の作品っていうのは,平安時代の説話のようなスタイルを取りながら,実は現実の矛盾や世の中,社会に対する色々な欺瞞や,人間の醜いところを説話スタイルで理知的に表現しています。
そして,菊池寛「父帰る」「恩讐の彼方に」ですね。「恩讐の彼方に」では,トンネルを自分の手で切り開いていく人のお話なんですが,なかなぁ面白く読める作品です。
新感覚派
新感覚派というぐらいですので斬新な表現が特徴的です。例えば,横光利一ですね。続いて川端康成ですね。川端康成「伊豆の踊り子」「雪国」などが新しいです。どの辺が新しいかと言うと,例えばこれまでの作品っていうのはまず主人公が登場するんですね
。この主人公はこういう人間で,こういう風なことをやってきて,今こういう状態ですっていうところからスタートする作品が多いんですけれども,この「伊豆の踊り子」は割とテレビ的な感じでして,いきなり風景から入っていきます。国境の長いトンネルを抜けるとそこからスタートするというような新しい斬新な表現技法です。
大衆文学
大衆小説の代表作としては,中里介山「大菩薩峠赤」が挙げられます。いかにもこう連載大衆小説っぽく,剣の達人の話なんですね。剣の達人を一人登場させれば,その師匠も出せるし,弟子も出せるし,ライバルを次々と変えてねドラゴンボールみたいにピッコロが出てきた,ベジータがでてきた,といったように敵をどんどん繰り出せるので,話が繋がるし,長くなるし,都合が悪い登場人物がいたら切られた設定にするなどできますね。
例えばほかにも吉川英治ですね。そして大佛次郎,推理小説では江戸川乱歩あたりが登場してきます。
プロレタリア文学
言論の社会主義思想が出てきたように,その社会主義をベースとしたプロレタリア
文学,労働者の苦しい生活を描き,人々に社会主義思想とあるいはその無産階級たちの人たちの暮らしや意見あるいは社会主義思想に対する思いをどんどんね伝えていくための文学のことをいいます。
雑誌としては「種まく人」「戦旗」があげられます。たとえば,小林多喜二の「蟹工船」やはり代表作ですね。船という閉鎖環境で監禁同然でこき使われる労働者が目覚めて,ストライキを起こして上の者に抵抗していこうという人々の雇用労働者や下層の人々の抵抗心に火をつけるような作品でしたので,この小林多喜二がのちに逮捕されて監禁されて拷問のうちに死んでいくのです。
あるいは,徳永直「太陽のない街」も有名ですね。そして葉山嘉樹「海に生くる人々」など,こういった作品が労働者の苦しい生活っていうのを浮き彫りにして人々に「今革命を起こそう」「抵抗しよう」って呼びかける文学ですね。ですから,彼らはしばしば本が発禁処分になったり,処罰をうけたりします。