日本史オンライン講義録

受験勉強はもちろん、日々の学習にも役立つ日本史のオンライン講義です。 

154 民主化政策の開始

 いよいよ民主化政策が開始されます。今回は,主に幣原喜重郎内閣のことをみていくことになります。

 

幣原喜重郎内閣

幣原喜重郎って実は登場するのが2回目なんですよね。というのも,立憲政友会と立憲民政党が交互に政権を担当していた憲政の常道の頃に,立憲民政党若槻礼次郎内閣の外務大臣として協調外交をやってきた人でもあります。そしたら,この協調外交っていうのは外国とうまく歩調を合わせていこうとするのですが,満州事変以降はこの協調外交が弱腰外交だ軟弱外交だって押された形になってしまい,幣原が政治の表舞台に立つことはなかったのですが,このタイミングで再び内閣総理大臣として政治の表舞台に帰ってくることになります。

 

で,前の総理大臣は誰かというと,東久邇宮稔彦王でしたね。東久邇宮成彦は,戦争に負けたわけですから降伏文書に調印する敗戦処理投手でした。そして,もう一つは,試合は終わったのにまだプレーしている選手に「お〜い,試合は終わったぞ!」と呼びかける役割の内閣でありました。しかし,この東久邇宮稔彦王GHQとは少し違った路線を進むことになります。一億総懺悔といっておきながらも,天皇主権には手を付けられたくないっていう立場で,内閣を総辞職していきましたね。そこで幣原喜重郎内閣が登場するのですが,GHQとしても「協調外交に定評のあるこの幣原という男ならば,我々の指示も受け入れて柔軟にこなしてくれるに違いない」と思ったことでしょう。そこで,まずどんな指示があったのかというと,まずは憲法自由主義ですね。国民が自由に発言できるように,国民が自由に投票できるように,国民が自由に政治に参加できるようにといったものでした。他にも,五大改革指令を出しました。例えば,①女性参政権を付与して,女性が政治に参加する権利を与えました。また,②労働組合の結成を奨励しました。労働者を放置しておくといつしか不満が爆発して革命が起こりうるので,ガス抜きをさせて社会主義への道を塞ごうとしたのでした。軍国主義は教育が作り出すものでもあるので,③教育の自由主義改革,④秘密警察の撤廃,⑤経済機構の民主化などが出されるわけです。

 

項目の覚え方

マッカーサーが幣原に)

  で アツアツ、経済 教育

人解放②働組合の結成③政の排除④済の民主化育の民主化

 

では,どのように具現化していったのでしょうか。

 

国家と神道の分離

まず神道指令を出しました。これは政府による神道への支援を禁止して,国家神道の解体を行います。国家が神道をコントロールして,国家神道のような形で国民を一つにしようとする動きはやめましょう,としたのでした。GHQとしては日本が戦争に至った原因を一つずつ潰していこうと考えたのですね。この国家神道というのは一体どこに結びつくかと言うと,天皇の神格化にも結びついています。そこでGHQは,天皇の神格化を否定する形をとって,天皇の「人間宣言によって国家と神道天皇制を少しずつ分断していくようにしました。次に,戦争の原因を作った戦争犯罪人というのがいるはずだってことで,東京裁判極東国際軍事裁判が開かれます。そこでは,戦争を引き起こしたとされる東条英機が裁判にかけられて,死刑にされます。次に,公職追放指令ですね。例えば,東京裁判にかけるでもなく,政治の世界であったり,経済の世界であったり,官僚であったりが,戦争を推し進めてきたっていう歴史があるわけなので,そいつらを戦争協力者とみなして,軍国主義者など約21万人もの人たちが公職から追放します。

 

さて,このような経緯を経て,次は教育に絡んでいくお話をしていきましょう。たとえば国語の教科書に「すすめ,すすめ!兵隊すすめ!」なんて一文が書いてあったら,まだ判断力の乏しい頃から軍国主義を叩き込んでいったり,あるいはお国のために尽くすことはいいことだ!っていうような画一的な国家主義教育をやってきた歴史があったので,今ある教科書に墨を塗った墨塗り教科書などが登場しました。

 

財閥解体

そして,次は経済の世界で改革をせよ!とGHQは指示を出していきます。GHQ軍国主義に至った要因を一つずつ潰していくのですが,その本丸となるのが財閥解体です。というのも,お金持ちが持株会社を作ったり,銀行を作ったりするわけですが,その持株会社がグループ企業をたくさん傘下として作っていきます。持株会社はそんなさまざまな企業の株を持っていて,株を持っているということはお金を投資しているってことで,そのお金を貸しているのが銀行なわけですよね。商売っていうのは元手となるお金が必要なので,まずは借金をすることで元手をゲットして,その元手で材料を仕入れて製品を販売し,儲けを出すわけで,その儲けから借金の返済に充てるわけですよね。じゃあ,その儲けがなくなったらどうなりますか?そもそも借金からスタートしている企業は,倒産しますよね。企業が倒産すれば,お金を貸している銀行も潰れてしまいますし,持株会社もせっかく投資した株式が紙切れになってしまい,持株会社も潰れてしまいます。このように出資をした企業が倒産することで連鎖倒産を招くわけです。なので,常に儲けをだしていかなければならないのですが,日本はそもそも市場が狭いので,その市場を広げるために海外展開をめざします。あるいは海外から安く原材料をゲットしたいとおもうわけですよ。すると,「植民地を作ってくれ!」って財閥の親分は政府や軍に訴えるわけです。もっと過激なことを言うならば,「もっと戦争をしてくれ!」ってことですね。これが要するに軍国主義化に拍車を欠けているんだ!この財閥というのは軍国主義の温床になっているんだ!とGHQは睨んでいて,財閥解体に乗り出すわけです。さしあたって,三井や三菱など15財閥の資産の凍結や解体を行います。資産の中には,株などもありましたが,持株会社整理委員会を発足させて,そこに売却しました。持株会社はいろんな企業の株を持っているのですが,この株式を一般の投資家に分割して売却をして,一般の投資家に広くバラまくことで株式の民主化を図ったのでした。

 

農地改革

GHQ寄生地主制を除去しようと考えました。寄生地主とは,その土地で暮らしておらず,小作人からの土地のレンタル料である小作料をせしめて生計を成り立てている地主のことを寄生地主といいます。これもある特定の人が多数を支配するといった支配の構造なので,民主的ではないということで寄生地主制を除去したのでした。安定した自作農がたくさんいた方がより民主的になるってことで,GHQ幣原喜重郎内閣に指示をだします。そこで幣原内閣が行ったのが,第一次農地改革です。これは政府が自主的に地主が持っている土地を制限しようとしたのではありますが,不徹底な改革に終わります。

 

インフレーションの発生

戦争の前後にはインフレが起こりやすいものなのですが,戦争に負けたものですから,極端にモノが不足するわけですよね。その上,復興のためにも経済は回していかなければなりません。そこでお金は発行するが,モノは不足するっていうことでインフレーションが発生してしまいます。そこで政府は,金融緊急措置令を発令しが,今までのお金から新しいお金へと切り替える新円発行をし,だぶついたお金が市場に流れないように預金封鎖を行いました。

 

憲法改正の指示

新しい民主的な憲法を作りなさいってことで,憲法問題調査委員会を発足させます。ただ,この委員会の委員長であった松本烝治が試しに案を提出したものの,まだ天皇の主権を認めていたので,マッカーサーがダメ出しをした上で草案を示し,日本政府が原案として発表されます。この新しい憲法はこの次の吉田茂内閣のときに公布されます。

 

政党政治の復活

五・一五事件犬養毅が暗殺されて以来,政党政治が姿を消してしまいましたね。あるいは戦争前には,大政翼賛会という形で政党が一つにまとめられてしまい,結局は軍が国をズルズルと引っ張っていき政党がなくなった状態でしたが,ここで政党が再結成されます。たとえば,日本自由党(旧立憲政友会系)ですね。そして,日本進歩党(旧立憲民政党系)です。そして,今まで設立が許されなかった共産党系が,合法政党として日本共産党が認められるようになりました。この代表が徳田球一です。そして,最後に日本社会党ですね。この政党は無産政党といって,労働者系農民系が統合された政党です。代表は片山哲です。そこで,この幣原喜重郎内閣は,新選挙法を制定します。大きいポイントは,女性参政権を認めたってことですね。20歳以上の男女ということになります。この新選挙法での実施は日本国憲法公布前の1946年4月に行われたのですが,これが2016年から18歳になりましたね。

 

そしたら,選挙の結果どうなったのでしょうか。まず第一党に日本自由党が選ばれます。さて,首相の幣原さんは旧立憲民政党で今回は日本進歩党で第二党となります。しかし,選挙には負けたものの,日本自由党過半数には達していないって言う理由で首相は続投する姿勢をみせたのですが,さすがにこれはバッシングを受け,幣原喜重郎内閣は退き,その後に吉田茂内閣が誕生することになります。立憲政友会の流れをくむ日本自由党のちに自由民主党と改称していきます。